
士郎正宗による原作コミック、押井守の劇場版「GHOST IN THE SHELL」、神山健治のTVシリーズの「STAND ALONE COMPLEX」に続く“第4の攻殻”として注目を集めている新シリーズ、『攻殻機動隊 ARISE』。
全4話構成である第一話を公開日に劇場で観て来たので、ネタバレにならない程度に感想を書いてみようと思います。

過去の成功にとらわれず、あえて新しい道を選んだ第4の攻殻
『ARISE』は公安9課の通称”攻殻機動隊”が設立に至るまでのエピソード。原作者である士郎正宗の膨大なプロットが元になっており、それを『マルドゥック・スクランブル』等で有名なSF作家・冲方丁が物語として完成させ、I.G作画三大神と言われる黄瀬和哉が総監督を務める作品。
制作会社のProduction I.G曰く、ビジネス的にはDVDが230万枚売れたTVシリーズ「STAND ALONE COMPLEX」の延長をやったほうが一番安全ではあったが、新境地を開くため、あえて全く新しい攻殻を作ることを士郎正宗に提案したという。

固定概念や先入観を捨てる必要がある新キャスティング
そんなわけで声優キャストも「ドラえもん」並みに一新。これまでの作品に強い思い入れがある人は、間違いなく違和感を覚えるであろうぐらいガラっと変わってます。公安9課の面々(ボーマ、サイトウ、イシカワはまだ出番なし)は、アニメらしからぬ洋画風キャスティングで、これはこれでまた違った味があります。過去作品の貫禄ある声のイメージからすれば全体的に若々しさを感じる印象。
草薙素子に関しては(過去にコドモトコを演じていた)坂本真綾が演じていますが、これについてもあの外見・頭身、そしてそのキャラクター性からして説得力を持たせたキャスティングであると感じました。確かにこの草薙素子だとこれまでのキャストでは合わないというのが観てわかったからです。

女性の形をした機械の体を持つスーパーマンではない草薙素子
「ARISE」が他の攻殻作品と大きく違う点は、主人公・草薙素子が完成されたキャラクターではない点だと思います。これまでのイメージとは違い、未熟な面や苦悩する心、精神的な弱さも描いている。いきなり電脳をハックされてしまうなんて失態はこれまでの草薙素子のイメージ像からすればありえなかったことです。
これは「ARISE」が草薙素子に焦点を当て、一人の女性の成長を描くこともテーマにしているからだと感じます。ここが新鮮な部分でもある反面、固定概念を持つファンの人からは「こんなの少佐じゃない!」と批判が聞こえてきそうな部分でもあります。

繰り返し使われる普遍的ともいえるテーマをミステリーに仕上げたストーリー展開
さて、肝心のストーリーに関してですが、私の中では期待値が高すぎたかなというのが正直なところ。
”記憶や信念をコントロールされ、被害や加害の記憶すら混沌する世界の中で、正義を貫けるか”というのが根底のテーマであるとするなら、これはもう過去の作品でも同じようなことを描いてきました。記憶の改ざんや電脳ウイルスといった使い古された要素を、改めてストーリーの軸にしている点については、わかりやすくて無難なところを選択しているなという印象を受けます。ただ今回はそれをミステリーという形に仕上げているという違い。
士郎正宗が『攻殻機動隊 2』で描いたような、自己と電脳とのつながりを霊的・神童的なニュアンスで表現するぐらい斬新なアプローチを求めていたわけではないですが、どうせ全てを一新するなら、もっと特別な何か新しいインパクトが欲しかった、というのが個人的な感想です。ただ、まだ第一話目なので全てを観終わった後ではまた違った印象を持ってるかもしれませんが。

(先着入場者特典として貰える全96ページにわたる豪華小冊子「MANUAL BOOK」と本編事件内容を新聞で表現した「新浜日報」。)
今後の話の展開&クオリティアップにも期待したい
最後にクオリティについても書いておきたいのですが、この一話目「border:1 Ghost Pain」に関して言うと、正直なところ劇場まで足を運んで観るに値するほどの完成度なのか、と問われると微妙なところであります。
キャラクターの顔の作画は安定しないし、電脳空間の表現においても特筆すべき緻密な表現はありません。9年前の押井守監督作品の『イノセンス』に見られる静的なリッチ映像とは違って、キャラクターの動きを重視したOVAクオリティのエンターテイメント作品という印象です。本作は幸いにも有料のネット配信でも観れるのでお好みでチョイスするのがいいでしょう。
日本のSFを牽引してきた「攻殻機動隊」を、この2013年に改めて再起動した意味、『ARISE』が見せる新しい世界に期待して、11月30日公開予定の「border:2 Ghost Whispers」を楽しみに待つことにします。
攻殻機動隊ARISE (GHOST IN THE SHELL ARISE) 1 [Blu-ray]
posted at 2013.6.24
坂本真綾,塾一久,松田健一郎,黄瀬和哉
バンダイビジュアル (2013-07-26)
売り上げランキング: 13
バンダイビジュアル (2013-07-26)
売り上げランキング: 13
- 関連記事
-
- 『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』を観てきたので感想 (2013/06/24)
- 劇場版『映画けいおん!』先行ロードショー観てきました (2011/12/03)
- 劇場版マクロスF サヨナラノツバサ 超時空スペシャルエディション (2011/10/23)
- ストパンが終わってパンストがはじまった (2010/10/03)
- けいおん! ライブイベント ~レッツゴー!~のBDを観た (2010/07/14)
Re: 『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』を観てきたので感想
ナルトやエヴァンゲリオンのようなあの動き。
好きになれないし、あんなのなら謎解きだけやって欲しいですね。
Re: 『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』を観てきたので感想
Re: 『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』を観てきたので感想
期待が大きくて、コレジャナイ感を味わうのはよくあることですが、
多少の間を置いて再度味わってみると、意外と悪くないというのもよくある話で…
第2話を見るときにおさらいがてら見直してみてはどうでしょう?
Re: 『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』を観てきたので感想
確かに戦闘シーンは静止したカメラアングルが多くて迫力に欠けましたね。
あと銃の撃ち方もなんかサマになってない。全体的に惜しいですね。
>ポリゴンさん
あーなるほど、その通りですね。相関関係などは確かに説明不足な点がありますね。
ミステリーにするとしてももう少し脚本を練ってほしかったかなと。解決の仕方がなんかスッキリしない(笑。
>Ravenさん
”攻殻”という名がついてるだけで、もう期待値は他の作品の何倍にもなってるわけで、どんなものを描こうが最初は叩かれる運命にあると思います(笑。
Ravenさんがおっしゃるように最終的な評価は全4話が終わってからですね。なんだかんだいいながらも楽しみにしてます。
Re: 『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』を観てきたので感想
押井攻殻も何度も見てると段々味が出てきます。
さてARISEは…
Re: 『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』を観てきたので感想
声の演技はどのキャラも特に違和感なかったですね。キャラの造形はまだ慣れないかな…。
メスゴリラの片鱗を見せてくれたりとファン向けにも結構気を遣ってそうですし、2話以降が楽しみです。
Re: 『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』を観てきたので感想
押井攻殻は北米VIDEOセール1位の記録を、神山攻殻は笑い男等の題材でネット掲示板の話題となったわけですが、はてさて黄瀬攻殻は何を達成してくれるのでしょうか。そういう意味でも目を離せません。
>nanasiさん
この未熟さも見せる素子が、後のメスゴリラになるんだということを想像すると色々と感慨深いものがありますね。坂本真綾をチョイスした監督は、過去作でコドモトコを演じていたことを知らなかったそうですが、何か不思議な縁があるのかもですね。
Re: 『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』を観てきたので感想
キャストは、坂本はいいにしても、他がひどい。バトーはボマーっぽいし、パズはサイトーっぽい。荒巻は大木のような凄みも、阪のような渋い深みもない。
内容はサスペンスだけど、シリーズ物の2時間ドラマのように、いつの間にか解決する紋切り型。
クルツや素子の部屋や、会議室など何度も同じシーンがでてくるのは演出的に冗長だし、戦闘シーンもしょぼい。
そのくせ、所々にどこかでみたような画を入れてくるのは姑息だな、と思った。
劇場版の強いメッセージ性、TV版の重厚なストーリー展開、どちらもできない4話構成なのにこのクオリティー。さて今後みるべきか否か…
Re: 『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』を観てきたので感想
なかなか手厳しい。でも一理ありますね。
4話構成のその1話目であるならもっと濃密でテーマ性の強い内容にしないと、この先どう展開していくのかスケールに不安を抱きますね。ただでさえ期待値を高くしている攻殻ファンは受け入れられるのかどうか・・・。色んな意味で見物です。
Re: 『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』を観てきたので感想
久々に観れて面白かったです。
絵は違和感ありますね。
Re: 『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』を観てきたので感想
勝算なしでこの時期に攻殻の企画を立ち上げたとは思えないので、ストーリー展開は色々練ってるはずなので楽しみにしてます。 クオリティをもうちょっと頑張って欲しいところではありますが・・・。
コメントの投稿